崇勲春日部の日常を、笑いと言葉へ変える
崇勲(すうくん)は、埼玉県春日部を拠点とするラッパー。KING OF KINGSの初代王者となり、「フリースタイルダンジョン」の2代目モンスターも務めた。太い声と落ち着いた佇まいの内側にあるのは、友人との笑い、地元の風景、自分への皮肉。文章を書く楽しさから始めたラップを、アルバム「春日部鮫」「素通り」「LIAR」、ichiyonとの共同作などへ広げている。
CHAPTER 01 / SECTION 01崇勲のプロフィールと名前
名前の読みは「すうくん」。異名は「仁王立ちの内弁慶」で、同じ名前の自身の楽曲もある。内にいる時と舞台に立つ時の姿が、ひとつの名前に重なる。下の名前の「すぐる」から友人に呼ばれていた「すー君」を漢字にした、という由来が伝えられている。フルネームは公表情報として扱わない。出生当時は、のちに春日部市へ合併する庄和町で育ち、本人は桜川小学校、葛飾中学校の卒業生だと地元の対談で話している。
父のひろし、母のたかこ、姉と育ったことは初期のプロフィールで紹介されてきた。現在の家族の暮らしを細かく明かすための情報ではなく、本人が曲や公開の場で話した範囲から、その背景に触れたい。
CHAPTER 02 / SECTION 02地元の友達と始めたラップ
歌う前に、ノートへ言葉を書いていた
子供のころは野球をし、足も速い、明るい少年だったという。一方で作文が好きで、自分の分だけでなく友人の感想文も書いていた。人前で感情を表すより、文章にすると自分の思いを出せる感覚があった。
日本語ラップではBUDDHA BRANDの「人間発電所」に驚き、RHYMESTERの分かりやすい言葉とユーモア、KGDR(キングギドラ)などを聴いた。友人のDJを通じてNasやBig Punにも触れる。見よう見まねでリリックを書いていたところ、地元の同級生DJ YABOに誘われ、18歳のころにマイクを握る側へ進んだ。
最初から有名になりたい、ラップで食べていきたいと決めていたわけではない。書いた言葉を音へ乗せる場所があったから続けてきた、という順序が崇勲らしい。2020年の取材でも、ヒップホップの人間関係へ入り込みすぎず、感情を表す場として距離を保ってきたと説明している。
3MC1DJから、第三の唇へ
初めは同い年の友達4人による3MC1DJ。地元でライブを重ねるうちに人が増え、6MC1DJの7人になって「第三の唇」と名乗るようになった。後藤、板垣氏、naGi、DJ YABOらが活動を共にした。クルー名は、冬に後藤の上唇が乾燥で割れ、もう一つ唇があるように見えたことに由来するとされる。大仰な名前の奥に、仲間内の小さな笑いがある。
浦和や春日部の小さな場所でイベントを開く一方、メンバーは人見知りが多く、都内とのつながりを作るのが得意ではなかった。7人の予定や意見を合わせる難しさもあり、2011年ごろからはソロで動くようになる。2019年の本人取材では、活動はしていなくても脱退や解散をしたわけではない、と話していた。「素通り」にも第三の唇のメンバーが参加している。
CHAPTER 03 / SECTION 03春日部、仲間と家族
早く帰りたくなる街
春日部は、単に曲で叫ぶ地名ではない。2020年の地元対談で崇勲は、東京で仕事をしても帰ってきて気持ちをリセットしたい、と話した。2019年には、ラジオ収録のため東京の地下駐車場へ入り、収録後は街へ出ずにそのまま車で帰ることもあったという。建物の高さが低くなり、見慣れた街が見えると落ち着く。その生活感が歌詞にもつながっている。
地元のTKda黒ぶちとは、お互いの活動を見ながら歩いてきた。崇勲は、先に広く知られていた年下のTKを尊敬し、都内のライブへ誘ってもらったことも話している。連絡を取り合う間柄で、TKが代表を務めるTimeless Edition Rec.からも作品を発表した。CHICO CARLITO、押忍マン、NAIKA MCらとの共演や、ACE、呂布カルマ、FORK、裂固、輪入道ら2代目モンスターとの制作もある。
TKの「Welcome Home」では、それぞれが別々に歌詞を書いたのに、二人とも地元の店のチャーハンを題材にしていた。崇勲は、夜の東京から戻り、翌日は春日部でパーティーをする景色を思い浮かべたという。TKとのイベント「カスカベーション」も、遠くの舞台に出るだけでなく、自分たちの街で集まる場所を作る活動だった。
お笑いの発想と、RUDIE’Sとの関係
小学生のころからお笑いが好きで、ダウンタウン、さまぁ〜ず、ブラックマヨネーズ、千鳥、とろサーモンなどを挙げ、DVDも多く買ってきた。本人は、作風にそのまま影響しているとは言わないが、発想のすごさから刺激を受けると話す。強そうな外見とのギャップだけで片付けるより、話をどうずらして返すか、という言葉の選び方に注目したい。
服ではRUDIE’Sとの関係が深い。2017年秋冬のモデルを務め、同年にはコラボキャップも発表した。ライブや普段の着用だけでなく、ブランドと一緒に形にしたアイテムがある。こうした地元に近い人とのつながりも、活動の一部だ。
昔の恋愛の話から、家族へ向けた曲へ
2018年4月のT-TANGGとのダンジョンの試合では、恋人がいるという話があり、出会った場所をサイプレス上野のMUSIC&BAR「WHAT’S GOOD」と明かした場面も当時の投稿に残る。2016年には別の時点の失恋を扱った反応があり、二つをつなげて、2018年の相手と後に別れたと決めることはできない。
その後の「WELCOME」では、2023年に生まれた子供が反抗期になった時に聴いてほしい、家族だけへ向けた曲だと作品説明に記している。子を迎えた家族の時間が、この曲で語られている。歌詞には子を迎える時間と、目の前の家族を笑わせる重みが描かれるが、相手の氏名や暮らしぶりまで推測する材料にはしない。
CHAPTER 04 / SECTION 04崇勲のMBTIを編集部が推定
Djtube編集部はINFPを候補に挙げる。本人が公表した診断結果ではなく、公開の制作発言からの推定だ。「素通り」では、生活が変わった後も負け犬の立場で歌うのは自分に合わないとして、完成していた歌詞をいったん捨て、書き直している。聴き手が期待するキャラクターより、その時の自分にとって嘘がない言葉を優先した判断が手がかりになる。
ichiyonとの制作で、知らないマッチングアプリの話は書けないと伝え、身近な寿司の話へ寄せたことにも、自分が書ける実感を確かめる姿勢が見える。一方、ビートとテーマを受け取り、理科実験や夏休みという具体的な題材へ素早く変える面はISTPという読み方もできる。人見知りという一語や、家族の出来事から性格を決めるものではない。
CHAPTER 05 / SECTION 05MCバトルとダンジョン
UMBのDVDから始まった、夜ごとの練習
2006年ごろ、仲間が持ってきた「ULTIMATE MC BATTLE 2005」のDVDを見て、国内のバトルがここまで進んでいることに驚いた。翌日から皆で練習を始め、初めは意味のない言葉でも並べ、毎晩続けるうちに少しずつできるようになったという。技の数だけでなく、知識や見てきた景色が言葉の精度を変える、と本人は捉えている。
2015年には、9sari groupが主催した「UMB2015 GRAND CHAMPIONSHIP FINAL」で優勝。のちのKING OF KINGSの初代王者に当たる大会で、Libra Records主催のUMBとは区別が必要だ。優勝するつもりで臨んでいたわけではない、という本人の振り返りもあり、その思いがけない結果が名前を広げた。
Zeebraからの電話と、違う角度のアンサー
ダンジョンではR-指定をクリティカルで破り、番組史上2人目の般若到達者となった。2017年、2代目モンスターへの誘いは突然の電話で届く。知らない番号からの「Zeebraです」を「志村です」と聞き違え、最初は戸惑った。相手が分かると一転して腰を低くし、不安と嬉しさを感じながら、その場で引き受けたという。
本人は、ディスが効かないわけではなく、人と同じ角度では返さないようにしている、と説明する。堂々と見える姿の裏で緊張も強く、収録の予定が届くと考え込み、車で向かう途中に高速の出口を間違えた話もある。それでも緊張を消すより、集中できる場面として受け取って舞台へ立った。
ダースレイダーとの応酬で語られた家族史
隠れモンスターとして出たダースレイダー戦は、相手の病気を巡る言葉から、命についての応酬へ進んだ。初期の記事は、2016年10月11日の放送で、崇勲が姉を自死で亡くした経験に触れたと伝えている。そこにあった十年前という表現から、命日を特定することはしない。
番組側の回顧記事でも、自分の家族史を伴う言葉と、ダースが返す命へのメッセージが交わされた試合として紹介されている。結果はダースのクリティカル勝利だった。家族の出来事を衝撃的な逸話として消費するより、相手の言葉へ自分の経験を重ねて返した試合として、前後の文脈を含めて受け止めたい。
CHAPTER 06 / SECTION 06作品に映る、立ち位置の変化
約2年かけた「春日部鮫」
2015年11月4日の「春日部鮫」は、2013年ごろから手探りで作った初アルバム。短いライブを見た尊敬する相手に音源を出すよう勧められたことが後押しになった。予算も十分ではなく、作り方も分からない中で約2年かかった。本人は、熱さと冷めた目線、仲間への思い、地元へこだわる理由まで、一人の人間として伝わる作品だと紹介していた。
KOK優勝の直後だったため、すぐに売上へつながったようにも見えるが、本人によれば初動は大きくなく、返品もあった。その後のダンジョン出演が、作品を聴いてもらう入口になった。大会の結果と、音源が届くまでの道のりは、同時に一直線に進んだわけではない。
「素通り」と、仲間を残す言葉
2019年5月29日の2ndアルバム「素通り」では、J-TARO、DJ RIND、LIBRO、Michita、CARREC、Maria Segawa、Watman Beginzらが参加。生活が変わっても昔の負け犬の目線を演じ続けるのは違うと考え、一度書いたアルバム分の歌詞を白紙へ戻した。押忍マンの制作に参加し、子育てをしながら一枚を作る姿に刺激を受けたことも、書き上げる力になった。
2018年の事故で亡くなった第三の唇の仲間へ向けた「ラストシーン」では、通夜で遺族が「FLASH」を流してくれた経験が背景にある。CHICO CARLITOとの「MATCHSTICK」も同じ仲間への思いから出発したため、二曲が同じ方向へ重ならないよう、こちらはより広い命の話へ調整した。クルーとして一緒に動く時間が減っても、作品の中に仲間がいる。
「TREATISE」から「LIAR」、共同曲の別の形へ
ichiyonとの「TREATISE」は、2020年の自粛期に届いた熱いメールから始まった。録音で初めて対面し、ichiyonが用意したビートから崇勲が選び、題材を決めていく。相手の言葉を無理に自分へ寄せず、違うまま一曲に入れる共同作だ。寿司、理科実験、夏休みなど、ソロとは少し違う題材も引き出された。
2025年5月10日には、全8曲のソロアルバム「LIAR」を配信。「超日本人」「大根役者」「URASHIMA」「SHIODOME」「別にいいんだけど」「YAKIMESHI」「WELCOME」「GIANT」を収録している。先に発表していた「YAKIMESHI」「WELCOME」と、新しいアルバムというまとまりは分けて捉えられる。
2026年8月のichiyonのミックス「Represent~Mixed By World Technique~」には、共同曲「to nerd to bro」と、吉田靖直を迎えた同曲のリミックスもある。共同作の曲が、別の歌い手やミックスの流れに入って変わる展開だ。崇勲のソロ新作という位置づけではなく、参加した音楽がその後どう届くかまで追える。
CHAPTER 07 / SECTION 07崇勲の曲を聴く
「FLASH」:影も含めて、自分のまま歌う
「春日部鮫」収録の代表的な一曲。DJ RINDによるトラックに、第三の唇や地元の友人との時間を置いていく。大きく見せるための成功談だけでなく、ライブで歌詞が飛ぶことや、帰りに皆で食事をすることまで曲へ入る。皮肉と愛着が一緒にある、崇勲の言葉の入口になる。
明るさだけを選ぶのではなく、影があること自体を歌の光へつなげる短句だ。自分のままでいたいという曲中の姿勢と重なり、失敗も含めた普段の仲間との時間が、作品の価値になる。
「素通り」:人の評価を当てにしすぎない
2019年の同名アルバムの表題曲で、J-TAROがプロデュース。こちらは曲名が「素通り」の配信音源で、アルバム全体を一本に収めたMVではない。タイトルには東京をそのまま通って地元へ帰る感覚と、バトルで得た評価を当てにしすぎないという、自分への戒めがあると本人は話している。
原記事には、2019年6月26日に本人が各配信サービスのリンクを探して案内した投稿も載っていた。CD発売日5月29日と、その時の配信案内は別の出来事だ。作品を届ける場が増えたことを、少し自虐的な言い方で伝えるところにもユーモアがある。
「WELCOME」:家族を迎える時間を残す
2024年1月11日に単曲で配信され、翌年の「LIAR」にも入った曲。作詞は崇勲、作曲はCoga Atsushi。2023年に生まれた子供が反抗期になった時に聴いてほしい、という本人の作品説明がある。こちらはHYOUTAN Recから提供された公式配信音源だ。
街を背負うという大きな言葉の先に、目の前にいる二人を笑わせる重さを置く。子が生まれる前に書くバースから、生まれた後の生活へ歌詞が進むため、気持ちだけでなく時間も一曲に残る。ミルクやおむつといった日常の言葉で、家族を支える覚悟が身近なものになる。
「GIANT」:まだ先へ出せる本気を問う
2025年の「LIAR」を締める曲。ukiyo specterが作曲とプロデュースを担当し、57Moveが録音、ミックス、マスタリングを担う。ここに掲載したYouTube音源の表記は「GIANT (Preview)」で、フルMVとは異なる試聴版だ。全編を聴く導線はアルバムの配信ページにある。
すでに大会の頂点を知っている人が、それでも本気を出してみたいと繰り返す。ここまでの自分を完成形にしてしまわず、まだ出せるものがあるのではと問い直す言葉だ。ユーモラスな固有名詞や比喩を挟んでも、その問いがフックに戻るため、笑いと向上心が同じ曲でつながる。
CHAPTER 08 / SECTION 08リスナーはどこに惹かれる?
原記事に集められた反応には、勝敗だけでなく、場の空気を変える崇勲への言葉が残る。MC派遣社員・MRJ主催のウスイは優勝時の姿を神々しいと評し、「ヒップホップ動画厳選」は1horseとの対戦に、ブーム以前から続けてきた二人のかっこよさを見ていた。
2017年のSAM戦では、相手の韻が勢いを増しても独特なラップで応じる点への反応があり、別の投稿は勝利を紹介していた。2019年の特番についてS0RALAはKOK2015を思わせる強さを挙げ、ASONE2014でラップを放棄して合いの手に回る姿を好む声もあった。ひぐちの、何度見ても驚くという感想もある。いずれも当時の個別の受け止め方だが、強さと可笑しさの両方が記憶に残っていたことが分かる。
本人は、モンスターを務めて呂布カルマの言葉に緊張感を感じたと語っている。自分と違う言葉の強さも見ながら、同じ返し方をしないという軸を保ってきた。
CHAPTER 09 / SECTION 09よくある質問
帰れる街があるから、言葉は遠くへ届く
Djtube 編集部

