GOMESSその場にいる相手へ、今の言葉を渡すラッパー
GOMESS(ゴメス)は、静岡県出身のラッパー・詩人。2012年の第2回高校生ラップ選手権で準優勝し、「人間失格」「LIFE」など、自分の経験を言葉にした作品で知られる。ラップのリズムを土台に、ポエトリーリーディング、共同制作、作詞提供へと表現を広げてきた。
自閉症と共に生きることを公表しているが、その紹介だけでは音楽の全体像はつかめない。即興で生まれた言葉に向き合い直す制作、相手の人生を歌う作品、Yackleとの共作にも目を向けたい。現在の活動から、ラップに出会った原点までをたどる。
CHAPTER 01 / SECTION 01GOMESSのプロフィール
本名は「森翔平」。本人の初期動画もこの名義で公開されており、旧記事のプロフィール表にある「森将兵」と、本文の「森翔平」という不一致は翔平の表記にそろえた。2014年にはLOW HIGH WHO? Productionに所属し、最初のアルバムを発表している。
過去の恋愛アニメへの感想から、実際の交際相手を判断することはできない。原記事が紹介した2017年10月の「セイレン」のゲーム化を待つ投稿は、作品を楽しんだ当時の反応として読めるもので、現在の結婚や恋人の公表とは別だ。
CHAPTER 02 / SECTION 02音楽を聴く日々から、作る日々へ
本人の取材によると、10歳の頃に自閉症の診断を受け、小学校から中学校にかけて学校へ通わない時期があった。原記事は、簡単なゲームをクリアできないことでも自分を責めた一方、音楽にはクリアや正解がなく、ただ聴いていられたとする回想を紹介している。2~3年ほど音楽を聴く生活が続き、週に20枚のCDを聴くことを目標にしたという。
NEUTの取材でも、図書館でCDを借り、目に入る音楽を次々に聴いた日々を話している。UVERworld、Aqua Timez、BENNIE K、モーニング娘。など、ヒップホップだけに限らない。歌だけでなく楽器の音にも惹かれ、カラオケ版を聴くこともあった。
ラップとの出会いとして原記事が紹介したのは、小学6年生から中学1年生頃、ソニー・ミュージックのアーティストのサイトを巡っていたときに見たRHYMESTER「HEAT ISLAND」の映像だ。格好よくてフルで聴いてみたいと思ったことが、受け取る側から自分で発信する側へ向かうきっかけになった。本人も別の取材でRHYMESTERのライブDVDから受けた感動を語っている。
中学2年生の10月27日、初めてリリックを書いた。原記事では14歳頃から耳で聴いたRHYMESTERの歌詞をまねて録音し、自分の詞を書き、自主制作CDで賞を得たことも紹介している。作曲はラップより先で、本人の回想では11~12歳頃。音符を入力するゲームから始まり、貯めたお年玉で作曲ソフトを買い、パソコンで曲を作るようになった。
こうした経験を、音楽によって障害を「克服した」という話にまとめることはできない。NEUTの取材で本人が疑問を呈したのも、その紹介の仕方だった。困難を乗り越えた場所から説くのではなく、当事者として同じ目線で言葉を書く。それは「てる」の制作方針にもつながっている。
CHAPTER 03 / SECTION 03名前の由来とファッション
「GOMESS」は父が子供の頃から呼び続けた名前だった。原記事の紹介では、母が付けた本名は翔平だが、父は男の子が生まれたらゴメスと名付けたいと考えていた。父の職場の人からもゴメスと呼ばれる一方、母、祖母、姉は翔平と呼んでいたという。幼い頃から耳になじんだ呼び名が、そのままMCネームになった。
由来には、父が好んだ中日ドラゴンズのレオ・ゴメスと、「ウルトラQ」第1話の怪獣ゴメスの話がある。怪獣の名前だったことと、父がその呼び名を使っていたというエピソードは分けて受け取りたい。怪獣を選んだから父が変わった人だとまで、性格を決める必要はない。
ファッションでは、東佳苗による縷縷夢兎(るるむう)への思いを原記事が紹介していた。2018年12月の投稿では、ZOZOTOWNに並ぶことを喜び、多くの人に届いてほしいと記したうえで、服を着る意味を教えてくれたブランドとして語っている。単なる着用ブランドの一覧というより、何を着て人前へ出るのかを考える存在だったことが伝わる。
CHAPTER 04 / SECTION 04GOMESSのMBTIを編集部が考察
編集部推定の候補はINFP。本人が公表した診断結果ではない。根拠にするのは障害や不登校の経験ではなく、公開された制作上の選択だ。Real Soundの取材では、初期アルバムで日本語ラップの技術を見せること以上に、自分の内面を描こうとしたと語っている。「情景」では他者の人生を表現する方向へ進んだ。一方、2015年の「し」に収録された姫乃たまとの共演曲「KEEP」では、共演者との会話にも自分との対話にも取れる詞を作ったと説明している。
自身の感じ方を確かめながら、その意味を別の人へ開いていく作り方を重視した推定である。一方、音の構造や即興の実践に着目すればISFPなど別の読みもできる。活動上の言葉だけで日常の人格全体はわからず、診断や健康状態、交友のトラブルをタイプと結び付けるものではない。
CHAPTER 05 / SECTION 05現在の活動と作品の歩み
2013年に公開された「人間失格」で知られ、2014年7月16日に1stアルバム「あい」、2015年3月18日に2ndアルバム「し」を発表した。「あい」では即興で録音してから言葉を見直し、「し」では書き綴ることへ制作を進めている。ラップのリズムを保ちながら、感情や言葉のアクセントを重視するポエトリーとの融合を試みた。
2015年には朝倉さやとの「River Boat Song」を収録したアルバム「River Boat Song -FutureTrax-」が第57回日本レコード大賞企画賞を受賞。GOMESS単独のアルバムに与えられた賞という意味ではない。同年からSEKAI NO OWARI主催のライブイベントにも出演し、活動の場を広げた。
2016年の「情景」前後編では他者の人生へ目を向け、2019年の「てる」で「あい」「し」「てる」の三部作を結んだ。中原中也「盲目の秋」の朗読カバー、Aqua Timezへの客演、東海テレビのCM「見えない障害と生きる。」への出演と楽曲提供、YGNT special collectiveへの参加、短歌やラップ監修も、その延長にある。
2025年3月19日にはGOMESS & Yackleの1stアルバム「Coexistence」を発表した。約5年にわたる制作をまとめ、配信版は14曲、CDはリミックスなどを加え19曲。過去曲の2025年リマスターと、新曲「the beautiful world」を同じ盤に収めた作品であり、全曲が新録の新曲というわけではない。
2026年3月20日発売のきだはしやのEPには、「化けの皮 feat. GOMESS」で参加。10代に書いた詞の勢いを残した共作だ。同年7月の「DJ6月BEST」にも、GOMESSが詞と歌唱を担当する「おいだされても」が入っている。後者は以前から発表されていた曲の収録であり、ベスト盤の日付だけで2026年の新録曲とはしない。
本人名義のベスト「あいしてる」も発表されている。Jin Inoueをサウンドプロデューサーに迎え、過去曲を全曲リアレンジ・新録音する計画で、母にも届く、より幅広い世代が聴ける音楽を目指したものだ。当初の発売予定の後、2026年7月には遅延について、9月には制作進捗についての告知が出ている。支援者限定の報告本文は確認できず、完成・一般発売済みとは断定できない。
作詞作曲の提供では2025年9月の鈴木あんず「透明の雫」、客演ではJIN INOUE作品への参加もある。ライブも続き、2026年にはALIのビルボード東京公演へのゲスト参加や、単独公演、渋谷La.mamaでの出演が公式に案内されている。
CHAPTER 06 / SECTION 06GOMESSの曲と共同制作
「人間失格」――自分だけに向けた題名ではない
森翔平名義で公開された初期PV。HENTAI☆BEATSがプロデュースし、説明欄では2014年の「あい」に完成版が入ったことも案内されている。初期PVとアルバム版を、無条件に同一の録音・詞として扱うことはできない。
本人はReal Soundの取材で、題名は自分だけでなく周囲の人間にも向けた言葉だと説明した。自分を卑下するだけの曲と読めば、他人からの視線や、メディアに取り上げられることを逆に見つめる視点が抜け落ちる。原記事が「言葉が重い」だけでは収まらないとした印象にも、こうした複数の向きがある。
「LIFE」――続編として書く、生きること
2015年の2ndアルバム「し」の冒頭曲。「人間失格」の続編にすることを最初から決め、E TICKET PRODUCTIONのトラックに言葉を乗せた。MVはParanelが監督している。
本人の取材では、トラックの構成は届いた時点で完成しており、制作側は自分のイメージと違うかもしれないと案じたが、GOMESSは高く評価したと話している。過去を告白する曲をただ繰り返すのでなく、他の作り手から届いた構成と向き合って続編を作った点が興味深い。初期の代表作を続けてたどるなら、「人間失格」と対になる曲だ。
「魔女狩り」――の子との制作、そして別の版へ
「てる」に収録された2019年のGOMESS名義の曲。作詞はGOMESS、作曲は神聖かまってちゃんのの子、MV監督は竹内道宏。言葉を前面に出すラップの一例として、の子との制作にも目を向けたい。
2023年には、神聖かまってちゃんがGOMESSを客演に迎えてセルフカバーし、2025年の「団地テーゼ」にも収録した。提供者が自分のバンドへ持ち帰り、元の歌い手と再び組むという関係が面白い。ここに置いたMVは2019年版であり、後年のバンド版の音や詞をそのまま当てはめることはしない。
「同じ空を見上げてた」――閉じた部屋から相手へ
蟲ふるう夜にとの共作。2014年10月の会社のパーティーでGOMESSのフリースタイルを見た蟻が声をかけ、一緒に作ることになった。作詞は蟻とGOMESS、作曲は蟻と慎乃介、編曲は慎乃介とZERO。互いの表現を認めた出会いから生まれた曲だ。
公式動画の詞では、部屋の中で自分の世界を守り、相手を待つ声が、言えなかった一言を振り返る。最後には、今からでもどうしたらよいかと問いかける。空や雨という共通の景色を使うことで、二人が同じ場所に立っていなくても、相手へ向き直す道ができている。共同作詞の詞として読み、公開された担当行の区切りだけで個人の実体験までは決めない。
「the beautiful world (feat. 金子理江)」――広い世界と狭い部屋
「Coexistence」の新曲で、金子理江を迎えた共作。作詞はGOMESS、作曲はGOMESSとYackle、歌唱はGOMESSと金子理江。MVはエドソウタが手がけた。CDの「the beautiful life」とは題名と収録位置を分けておきたい。
世界の広さと、一人がいる部屋の狭さを一行で重ねる。助けを求める紙飛行機が天井にぶつかる比喩も、外へ届きそうで届かない距離を具体的にする。その中へ相手との出会いと光を置くことで、ただ世界を美しいと言い切るのとは違う、閉じた場所からの願いが生まれる。二人の歌唱の細かな分担を未確認のまま決めず、共作全体の言葉として読んでいる。
「化けの皮 (feat. GOMESS)」――10代の言葉を、現在の共作へ
きだはしや「化けの皮 feat. GOMESS」を正規配信で聴く
2026年3月20日発売のEP「きだはしや」収録曲。GOMESSときだはしやが共同で作詞・作曲し、aki a.k.a daraがプロデュースした。正規の紹介文は、15歳の頃からの仲間同士が、10代で書いた詞と勢いをそのまま込めた曲と説明している。
昔の言葉を、後から整え直して無難な形にするのでなく、その時期の鋭さごと今の作品へ持ち込む試みだ。過去曲を優しい音で包み直す「あいしてる」の制作計画とは、振り返り方が異なる。どちらも昔の自分を捨てるのでなく、現在の共作者とどう届けるかを考える制作として見られる。
CHAPTER 07 / SECTION 07高校生ラップ選手権とダンジョン
2012年の第2回高校生ラップ選手権は、初出場で準優勝。同い年のラッパーの応募を知り、自分も出たいと思って締め切り間際に申し込み、最後のエントリーだったと原記事は紹介している。1回戦では前回準優勝のLIL MAN、準決勝ではTAKAに勝ち、決勝でKay-onに敗れた。LIL MANが前回決勝で対戦したK-九は、後のT-Pablowだ。
主催側の決勝動画。リズムを保つKay-onと、差別を受けた経験や自分の立場を相手へ投げかけるGOMESSの対照を、原記事は大会を盛り上げた場面として紹介していた。
第3回では、後に共同生活をしたMCニガリ a.k.a 赤い稲妻と初戦で対戦。原記事は、GOMESSを認めながら優勝するのは自分だと返すニガリの、韻と応答の両方があるバースを印象的な場面として取り上げている。
フリースタイルダンジョンでは、座ってラップするGOMESSにサイプレス上野も座って応じた対戦があった。原記事には2017年と2018年に投稿されたROUND1、ROUND2の観戦動画が残り、筆者が数ある対戦の中でも好きな試合として評価していた。相手と同じ高さで言葉を交わす、そのやり取りが記憶に残った試合だ。
2019年9月の観客の記録には、じょう戦でマイクを武器にしないという姿勢を示し、相手の言葉の向け方を問い直したこと、韻マン戦で同じ言葉を韻のために繰り返すことを指摘し、客や相手との対話を促したことも残る。いずれも原記事に保存された当時の反応として紹介するもので、今回新たに試合を再生して逐語確認した引用ではない。
CHAPTER 08 / SECTION 08不可思議/wonderboyと仲間たち
ニートtokyoで不可思議/wonderboyについて話した本人の取材動画。原記事によると直接の面識はなく、最初は一人のリスナーとして好きではなかったという。それでもLOW HIGH WHO?の仲間と食事をするたび、その場に彼もいるように感じ、墓参りへ行くほど大切な存在になっていった。24歳で亡くなった音楽家を、単純な影響源という一言に収めない関係だ。
SEKAI NO OWARIのFukase、水野しず、Lick-Gとの交流も原記事に残る。2017年5月にはFukaseと出会って2年が経ったことを振り返り、2019年5月には水野しずとの第5弾トークイベントにmillnaを迎える告知をしていた。2017年11月にはLick-Gとファミリーレストランで4時間以上語り、数少ないラッパーの友達として、いつか映画のように共演したいと記していた。
MCニガリとは共同生活をした時期がある。高校生ラップ選手権を見たニガリが、正月にどうすればラップが上手くなるかと連絡したことも原記事は紹介している。一方、裏アカウントの発言から不仲になったという話には、当該原文と本人の確認できる説明が示されていない。過去に一緒に暮らし、ラップを交わした事実と、現在の関係を外から決める噂は分けたい。
本人公式チャンネルが公開した、MCニガリとの川辺のフリースタイル。過去の二人の記録であり、映像があることだけで現在の関係を証明するものではない。
2019年10月、mekakusheはワンマン「あいしてる」について、飾りのないステージと黒い衣装、満員のWWWでの3時間を取り上げていた。同月の別の反応ではGOMESSがヒップホップそのものを体現しているとの評価があり、2016年にはバンド編成への驚き、2017年にはMOROHA、amazarashi、狐火らと並べ、普段あまり音楽を聴かない人にも届くライブだという感想も紹介されている。反復される「格好いい」の中にも、独演、バンド、対話という違った入り口がある。
自分の言葉を、その場にいる相手へ。GOMESSは作品でも即興でも、同じ時間を生きる人との対話を続けている。
Djtube 編集部

