valkneeギャルへの憧れをラップに変えるまで
valknee(バルニー)は、神奈川県出身、東京を拠点に活動するラッパー。バンド、ハロー!プロジェクト、RHYMESTER、ギャルへの憧れを通って、自分の怒りや恋愛、自己愛をラップにしてきた。Zoomgalsのメンバーでもあり、2026年にはアルバム「Gear」とコンセプトEP「Le Tombeau de valknee」を発表している。
ギャルらしい見た目は、昔から迷いなくその集団に属していた証しではない。自分を半端なギャル、パギャルと呼びながら、なりたかった姿へ近づいていった。その歩みを知ると、不満を口にする曲と自分を祝う曲が、同じ人の表現としてつながる。
CHAPTER 01 / SECTION 01valkneeのプロフィールと名前の由来
名義の読み方はバルニー。本名のはるなが、ばるな、バルニーへと変化したニックネームに由来する。「—」は記載できる情報が揃っていない項目で、未婚や兄弟がいないという意味ではない。
初期の紹介にはAOICという事務所・レーベルの表記もあったが、2026年の本人プロフィールは、事務所やレーベルに所属せず自己プロデュースで活動すると説明している。かつての作品のクレジットと、現在の活動体制は分けて捉えたい。
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CHAPTER 02 / SECTION 02valkneeの生い立ちと音楽との出会い
韓国の日本人学校で過ごした小中学生時代
小学校5年生から中学校3年生までは韓国で暮らし、ソウルの日本人学校へ通った。Jin Doggはその学校の同級生だ。当時のvalkneeは学校生活を楽しむ一方、韓国のカルチャーには今ほど惹かれていなかったと話している。
日本の漫画や雑誌、「ミュージックステーション」を録画したビデオを送ってもらうことが楽しみだった。韓国に住んでいたから韓国語が自然に身に付いた、という経歴ではない。後の曲で韓国語を使うことと、当時の語学習得は別の話になる。
母親のベースから、大学のバンドへ
高校時代、祖母の家で母親が昔使っていたベースを見つけ、楽器に触れ始めた。大学ではバンドを組み、ベースとシンセサイザーを担当。オリジナル曲も自分で作ったが、メンバーと意見が合わずに解散している。
本人は、自分の我が強く、全て自分でやりたい気持ちがあったと振り返る。当時は、人に何かを期待することをやめたとも話していた。ラップという形に限らず、何かを表現する人になりたかったという。その経験から、一人でトラックメイクとラップを完結させるtofubeatsのような活動に惹かれ、機材を買い揃えた。バンドがうまくいかなかったことを、音楽をやめる理由にはしなかった。
大学の先輩には嫁入りランドのメンバーや、lyrical schoolのプロデューサー・キムヤスヒロがいた。RIP SLYMEやRHYMESTERも好きで、身近に音楽を作る人がいる環境から宅録へ進んでいった。
RHYMESTERと宇多丸から受けた影響
RHYMESTERに惹かれた経緯を話すニートtokyoのインタビュー。大学時代にTSUTAYAで働いていたころ、宇多丸がDJをする「申し訳ないと」、著書「ブラスト公論 増補文庫版 誰もが豪邸に住みたがってるわけじゃない」、ラジオ「ライムスター宇多丸のウィークエンド・シャッフル」などを通じて聴き込むようになった。
ラップを始めたころには宇多丸に似ていると言われたこともあったという。好きなのはMUMMY-Dより宇多丸、見た目の好みはDJ JINという話にも、グループの音楽だけでなく人や文化への関心が表れている。
ValkneeとJin Doggが韓国の日本人学校で同級生だったのあついな
20周年のBase Ball Bear武道館
眩しかった😭特別なバンドです大好き
香菜殿とちっちゃ東京タワーと🗼
CHAPTER 03 / SECTION 03valkneeがギャルを選んだ理由と好きな文化
パギャルという自己認識
ギャルへの憧れは、藤井みほなの漫画「GALS!」や雑誌から生まれた。ところが高校には憧れの姿に近い先輩が一人いる程度で、大学では身近にギャルがいなかった。家庭の事情もあって、思い描いた格好を存分にできたわけではない。
そこで本人が使っていたのが、パギャルという言葉だ。憧れはあるのに半端なまま、という気持ちを含む。その後、自分で企画したギャル縛りのイベントが好評だったことをきっかけに、ギャルを前面に出した見せ方へ踏み出した。
ハロー!プロジェクトと少女漫画
モーニング娘。や松浦亜弥など、ハロー!プロジェクトへの思いも深い。幼いころから好きだった音楽を大学時代に聴き直し、つんく♂の制作に改めて惹かれた。DJイベントに足を運び、ハロプロの楽曲へ自分のラップを乗せ、一時はその曲だけでライブをしていたこともある。
漫画では安野モヨコの「花とみつばち」が好きだという。それまで少女漫画の主人公に自分を重ねにくかったvalkneeが、登場人物の気持ちや台詞に共感できた作品だ。可愛い姿への憧れだけでなく、うまく振る舞えない人の言葉も、曲作りにつながっている。
valkneeちゃんのギャルメイク優勝してる。使ってるグロス切実に教えてほしい。ぎゃうだから〜ぎゃうだから〜
アイドルについて書いたnoteには、2020年8月にジョン・ライターという読者が面白いと感想を寄せていた。聴く楽しみを、自分の言葉で語る活動にもつなげていたことがうかがえる。
なんでニュースで毎日スポーツだけやるんだろ音楽は?漫画は?とか小学生くらいから思ってたんだけどここまでスポーツが上ですキリッされてしまう時が来るとは
CHAPTER 04 / SECTION 04valkneeのMBTIを編集部が考える
Djtube編集部は、本人の制作上の選択からINFPを仮説に挙げる。本人が公表した診断結果ではなく、公開された表現を読むための推定だ。
具体的な根拠は、他人の期待に合わせるより、自分の感情を作品にする方法を選んできた点にある。バンドから宅録へ移り、「偽バレンシアガ」では人付き合いへの違和感をそのまま題材にした。2019年のインタビューでも、感情が動いたときにメモし、後から編集する作り方を説明している。
そこから、自分の価値観や内側の感情を大事にする読みを採った。ただし、一人で制作するのは実務上の都合でもあり、独立制作だけで内向型とは決まらない。ZoomgalsやANTICとの共同制作からは、人と意見を交わす面も見える。INFPという型で、協働の仕方や日常の性格まで決めることはできない。
CHAPTER 05 / SECTION 05valkneeの仕事とラッパーとしての歩み
会社のストレスが制作へ向かった時期
仕事とラップについて語るGOLDNRUSHのインタビュー。valkneeは、美容関係の会社で約3年間働き、客のコンプレックスをあおって高額な商品を売る仕事や人間関係に苦しんだと話している。防音室で叫ぶほどのストレスが、制作の勢いにつながっていたという。
その後、より働きやすい会社へ転職すると、かえって制作が進まなくなった時期もあった。悪い環境を創作のために肯定する話ではなく、怒りがどのように曲の材料になっていたかを本人が振り返ったものだ。OLとラップを並行していた時期の話を、現在の勤務先や就業状況へそのまま当てはめることはできない。
ラップスタア誕生!2023のサイファー
「ラップスタア誕生!2023」のSELECTION CYPHERで、valkneeが参加したグループBの映像。30人が進んだこの段階で視聴者投票1位を得たが、審査員の選考では次へ進めなかった。
本人は、それまで見た目やトラックを理由にヒップホップの枠へ入れてもらえないと感じていたという。番組への出演は優勝という結果ではなく、自分をラッパーとして受け止める人が増える経験として大きかった。
2024年の「Ordinary」から2026年の新作へ
2024年4月に1stアルバム「Ordinary」を発表し、同年5月の初ワンマンは渋谷WWWで完売。2026年2月11日には2ndアルバム「Gear」、5月13日には5曲入りEP「Le Tombeau de valknee」を発表した。後者は、死後に遺された作品から影響を受けて作られた、という架空の設定を持つ作品。本人が亡くなったという知らせではない。
CHAPTER 06 / SECTION 06valkneeのラップスタイルと代表曲
valknee「WHITE DOWN JKT」
「WHITE DOWN JKT」のパフォーマンス映像。valkneeは、トラップを軸にした曲や耳に残る声とフロウに、愚痴、恋愛、自己愛を持ち込んできた。友達との付き合いで感じた負の感情も、ユーモアを交えた言葉へ変えるところに特徴がある。
日本語に韓国語や中国語を取り入れる曲もある。ただし、多言語の語句を曲で使うことと、三つの言語を自在に話すという語学力の認定は同じではない。
買えないという言葉を、バッグやチェーンだけでなくダウンジャケットへ重ねる。高価な服への憧れと、買うお金や試着する勇気がない自分を同じ曲へ置いている。ギャルの装いを最初から手にしていた人という単純な像を崩す言葉だ。
valknee「ASIANGAL」
韓国で暮らした記憶を手繰り寄せて作った曲。韓国で撮影したMV、日本語と韓国語などが行き交う歌詞、アジアを意識させるトラックが結び付く。幼いころは馴染めなかった場所を、大人になった自分の表現へ取り込んでいる。
東部二村洞という具体的な地名と、東京から来たギャルの自己紹介が同居する。住んだ場所と今いる場所を、どちらか一つへ絞らない言葉の使い方だ。韓国語を使う曲であっても、子供時代の韓国語習得を証明するものにはならない。
valknee「偽バレンシアガ」
今まで会って嫌だった女の子を題材にした曲。不満をコミカルに言いながら、見た目を整えることと自分の信念を持つことのずれへ切り込んでいる。配信上の曲名は「偽バレンシアガ」で、英字表記の「偽BALENCIAGA」としても知られる。
偽物のブランド品まで可哀想だと言うことで、批判の矛先を持ち物そのものから、言葉と行動のぶれへずらしている。最後の寄らないでの反復は、相手から距離を取る意思をむき出しにする。現実の誰かの不正を告発する資料として読む曲ではない。
valknee + ANTIC「折衷案じゃん」
トラップの制作を得意とするANTICとの共作。折衷案じゃんという言葉から作り始め、中途半端だと感じる曲が売れる音楽シーンへの思いを題材にした。単に何かを折り合わせるという辞書的な意味より、納得しきれないものが受け入れられることへの苛立ちが前にある。
折衷案とワンチャンを響きでつなぎ、半端なものへの批判を、自分にも機会があるという見立てへ折り返す。怒りだけで閉じず、隙を見つけようとするところが面白い。
「偽BALENCIAGA」の言葉を語るインタビュー
ABEMA HIPHOPの「THE LYRICS」で、本人が「偽BALENCIAGA」を題材に話す映像。曲の配信音源とは別に、言葉を作った側の説明へ触れられる。バンドから一人の制作へ移った経緯も、誰かと組めないという単純な性格の決め付けではなく、作りたい音を自分で形にする方法の選択として読みたい。
valknee「ぷに」
2026年のアルバム「Gear」に収録された曲。作詞はvalknee、作曲にはNUU$HIも参加している。アルバムにはこの曲のほか、「でっか」、鎮座DOPENESSとの「DAMEDAME」など全10曲が並ぶ。
相手へ聞き返す短い声を続けた後、もう次へ行こうと急かす。丁寧に一つの気持ちを説明するより、反応の速さや言葉の飛び方で場面を動かす書き方だ。
valknee「劇場」
「Le Tombeau de valknee」を公式配信で聴く
2026年5月13日発表のEP「Le Tombeau de valknee」の収録曲。EP全体はOrganista Giftshopが制作し、「劇場」もvalkneeとの作曲クレジットを持つ。歌詞にある日記と舞台が重なる言葉から、内側の感情を人前の表現へ変える曲として読める。
日記を指すDiaryを繰り返した先で、閉じた部屋ではなく劇場が現れる。人に見せる前の感情と、主役として演じる自分が一つのフレーズで行き来する。死後というEPの設定も、本人の実際の死や具体的な病気を意味しない。
CHAPTER 07 / SECTION 07Zoomgalsとvalkneeの仲間
Zoomgals「生きてるだけで状態異常」
Zoomgalsの「生きてるだけで状態異常」のMV。メンバーはvalknee、田島ハルコ、なみちえ、ASOBOiSM、Marukido、あっこゴリラの6人。令和のギャルサーを掲げる集まりで、ずっとギャルサーを作りたかったというvalkneeの願いが形になった。
一人で制作できるラップを選んだ後も、仲間との曲作りまで閉じたわけではない。Zoomgalsとしてだけでなく、それぞれのソロ曲でもメンバーが客演する。春ねむり、大門弥生、lyrical school、Rachelらとのつながりもあり、自分の感覚を保ちながら人と組む活動を続けている。
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状態異常というゲームなどで使う語を、ただ生きている日々へ重ねる。誰か一人だけを普通ではないとするのではなく、共同曲の繰り返しとして、自分たちのしんどさを同じ場所へ持ち寄る言葉だ。病気の診断を意味するものではない。
